ポリエチレンガイドPOLYETHYLENE GUIDE

製品開発では、試作の高速化と量産品への性能の継承、材料ロスの低減が同時に求められます。日本ポリエチレンでは、ペレット式3Dプリンターと直鎖状エチレン系アイオノマーを組み合わせ、試作から量産までを同一の材料でつなぐ「ワンペレット開発」を提案します。
近年、消費者ニーズの多様化やパーソナライズ需要の高まりを背景に、ものづくりの現場では少量多品種化と製品ライフサイクルの短縮が急速に進んでいます。こうしたなか、製品開発の担当者からは「試作をより速く回して市場投入までの時間を短くしたい」「試作で作り込んだ性能を量産製品にそのまま引き継ぎたい」「材料ロスや環境負荷を抑え、サステナビリティ要請にも応えたい」という要求が、これまで以上に同時かつ強く求められるようになっています。
しかし、従来の開発プロセスでは、試作と量産とで異なる材料が使われるケースが少なくありませんでした。試作段階では、デザイン性や質感、重量感の作り込みを優先した材料、量産段階ではコストや成形性を優先した材料というように、工程ごとに材料が切り替わる場合、両者の間に物性のギャップが生じます。その結果、量産に移行する段階で改めて性能を評価し直したり、狙いどおりの特性が出ずに設計をやり直したりといった手戻りが生じていました。こうした手戻りは、開発リードタイムの長期化や試作コストの増大を招くだけでなく、市場投入のタイミングを逃す機会損失にもつながります。
加えて、試作と量産とで材料が異なる場合、工程ごとに専用材料を準備する必要があり、材料在庫や調達管理が複雑になりやすいという課題もあります。また、試作段階で生じる端材や失敗品も再利用されにくく、そのまま廃棄されるケースも少なくありません。脱炭素や資源循環への社会的要請が高まるなか、材料ロスの削減は、開発プロセス全体で取り組むべきテーマとなっています。開発現場では、試作スピードの向上だけでなく、量産時の性能再現性、再評価工数の削減、材料ロスの低減といった複数の課題が重なっています。したがって、試作から量産までを同一材料でつなぎ、開発スピード、性能再現性、材料効率を同時に高める仕組みが求められています。
開発リードタイムの短縮と、少量多品種・個別最適化への対応が求められるなか、試作手段としての3Dプリンターの活用が拡大しています。とりわけ開発現場が注目しているのが、金型成形と同じ樹脂ペレットをそのまま原料として直接造形できるペレット式3Dプリンターです。フィラメント式が主に精密・小型造形で普及しているのに対し、ペレット式は材料の選択肢が広く、量産材と同じ材料で試作できる点に期待が集まっています。
フィラメント式では、ペレットからフィラメントを製造する工程が必要となるため、コストが増加し、さらに熱履歴による物性への影響が生じる可能性があります。一方でペレット式はフィラメント化が不要なため、材料本来の特性を維持したまま造形でき、量産材と同一系の材料を使えることから、試作段階でも実製品に近い性能で評価できると考えられます。これは「試作結果を量産にそのまま活かしたい」という開発現場の要求に直接応えるものです。
しかし現状では、こうした利点があっても試作用と量産用で異なる材料が用いられるケースが多くあります。その背景には、試作段階では「すぐに造形できること」「外観や形状を短期間で確認できること」が優先され、3Dプリンターで扱いやすい専用材料や汎用フィラメント材料が選ばれやすい一方、量産段階ではコスト、成形サイクル、金型成形性、長期物性、調達安定性などが重視され、別の量産用材料へ切り替えられやすいという実務上の事情があります。また、フィラメント式では使用できる樹脂の種類や物性範囲に制約があり、ペレット式でも材料ごとの吐出条件や形状保持性を最適化する必要があるため、量産材をそのまま試作に使うには技術的なハードルが残ります。その結果、試作データと量産データが分断され、量産移行時に改めて性能評価や条件検討を行う工数が発生します。開発現場が求めているのは、装置だけでなく「試作から量産までを一貫してつなげる材料」であり、ここに新たな材料提案の余地があります。
ペレット式3Dプリンターでは多様な樹脂が利用できますが、そのうちの一つに熱可塑性ポリウレタン(TPU)があります。柔軟性や反発弾性に優れ、シューズなどで実績を持つ材料です。ただしTPUは、グレードによっては造形時の形状保持が難しく、また加水分解しやすいグレードでは長期耐久性に制約が生じることがあります。「試作から量産までを同一材料でつなぎ、かつ安定造形と長期耐久を両立したい」という開発現場の要求に対しては、こうした特性が課題として残ります。この課題に対する解決策となり得るのが、日本ポリエチレンが開発中の「直鎖状エチレン系アイオノマー」です。
本材料は、高い機械強度に加え、イオン性官能基と金属イオンどうしが材料内部で電気的な結びつきをつくることで、分子鎖がほどけにくく、形状を保ちやすい特長を持ちます。ここでいう凝集力とは、材料を構成する分子鎖どうしが互いに引き合い、外力や熱が加わっても内部構造を保とうとする力を指します。この凝集力により、造形時には押し出された樹脂が垂れにくく、積層後も層同士がしっかり融着しやすいため、形状安定性と造形品の強度向上が期待できます。さらに、ペレット形態で3Dプリンター造形と金型成形の双方に同一材料で適用できる点も強みです。直鎖状エチレン系アイオノマーの概要はこちらをご覧ください。
アイオノマーの特長である凝集力と耐加水分解性を活かすことで、TPUが不得手な安定造形・長期耐久が求められる領域を補完できます。造形面でも、適度な溶融流動性と良好な層間接着性により安定した押出・形状保持が期待でき、試作から製品評価までを一貫した材料系で検証できます。加えて、熱可塑性で再成形が可能なことや、配合による設計自由度が高いことも、材料としての特長です。
従来の開発プロセスでは、3Dプリンターによる試作と金型による量産で異なる材料が用いられる場合、試作と量産の間に物性ギャップが生じていました。本構想は、この課題に対し、同一材料のペレットで試作から量産までを一貫して行う「ワンペレット開発」を提案するものです(図1)。
すなわち、3Dプリンターによる試作から金型成形による量産までを単一材料で行うことで、試作データと量産データの連続性が確保できます。これにより、量産移行時の再評価工数の削減や開発リードタイムの短縮に加え、材料在庫の共通化によるサプライチェーン効率化も期待でき、「速く・確実に・無駄なく」量産へ移行したいという顧客の要求に応えます。
さらに、再成形可能な特性を活かすことで、試作・評価段階での材料ロスを最小化できる点も、本構想の重要な価値の一つになると考えています。
加えて、同一のベース材料を起点に、用途に応じて必要な特性を設計・評価できる点も本構想の広がりを支えます。例えば、シューズ用途では軽量性・反発弾性・耐久性の付与、ドローン外装部品では剛性・耐衝撃性・軽量性の付与といったように、用途ごとに求められる機能を材料設計と成形条件の両面から最適化していくことができます。こうして「少量多品種 × 高機能 × 量産対応」を同一材料系で検討できることが、本構想がもたらす価値です。

図1 3Dプリンターを活用した「ワンペレット開発」構想フロー
本構想の具体的な適用候補として、軽量性・反発弾性・耐久性が同時に求められ、かつ個別最適化のニーズが強いスポーツシューズのソール(特にミッドソールやアウトソール)が挙げられます。まず3Dプリンターで個別設計に基づく試作を行い、その後、同一材料で金型成形による量産へ移行することで、試作から製品までを一貫した物性設計のもとで開発できる可能性があります。
パーソナライズ需要や環境配慮への関心が高まるシューズ市場では、軽量性・反発弾性・耐摩耗性といった性能を材料設計で最適化することで、機能性とデザイン性を両立した高付加価値製品の開発につながると期待されます。

「試作をより速く」「試作の性能を量産に引き継ぎたい」「材料ロスを減らしたい」という開発現場の要求に対し、ペレット式3Dプリンターと直鎖状エチレン系アイオノマーの組み合わせは、「試作」と「量産」を同一材料でつなぐ「ワンペレット開発」という新たな解決の道筋を示すものです。フィラメント化工程の不要化による工程簡素化、再成形による材料ロスの削減、用途に応じた配合設計の自由度の高さにより、開発効率と環境価値の両立に寄与し得ると考えられます。
本構想は、従来分断されていた開発プロセスを統合し、持続可能かつ高効率なものづくりへの転換を促す新たな提案です。現時点では材料設計に基づく構想段階にありますが、今後は、ペレット式3Dプリンターによる造形性の評価や、金型成形品との物性相関の確認、シューズ等の実用途を想定した機能・耐久評価、再利用時の物性維持や環境負荷低減効果の検証といったテーマに、一つずつ取り組んでいきたいと考えています。ご関心のある用途や共同での検討テーマがございましたら、ぜひお声がけください。
詳細に関するお問い合わせはこちら
免責事項
本記事に記載された試験結果、技術情報、推奨事項等は、弊社が蓄積した経験および実験室データに基づいて作成したもので、異なった条件下で使用される製品にそのまま適用できるとは限りません。
従いまして、お客様の製品、使用条件にそのまま適用できることを保証するものではなく、それらの活用に関してはお客様で責任を持って判断する必要があります。
弊社はいかなる場合においても、本製品を単独または他の製品と組み合わせて使用した場合の、製品への適合性及び本書に記載された用途における市場性と安全性については保証しません。
お仕事のご依頼・ご相談はお気軽にご相談ください。
お客様に最適なソリューションをご提案いたします。