ポリエチレンガイドPOLYETHYLENE GUIDE
日本ポリエチレンが開発している直鎖状エチレン系アイオノマーは、高い物理的耐久性、優れた透明性、ポリエチレンを超える機械強度を持つ次世代の高機能素材であり、多様な用途への展開が期待されています。
極性基を有するポリオレフィンは従来から製造されてきましたが、いずれも分岐構造が主流で、直鎖構造かつ極性基を持つポリエチレンはこれまで実現されていませんでした。
日本ポリケムグループでは、独自の遷移金属触媒技術を応用し、前例のなかった極性基を含む直鎖構造のポリエチレンの開発に成功しました。その成果をもとに、次のステップとして直鎖構造のエチレン系アイオノマーの開発に注力しています。
エチレン系アイオノマーは、極性基を含むポリエチレンに金属原料を混ぜることで、極性基と金属イオンがイオン凝集した構造を持つ高分子材料です。従来は分岐タイプの一次構造が一般的でしたが、日本ポリエチレンでは長期にわたる技術開発の末に、直鎖構造の極性基含有ポリエチレンのアイオノマー化にも成功しました(開発品:アイオノマー)。
本素材は、従来の多分岐エチレン系アイオノマーとは異なる特性を示し、耐久性や機械強度が求められる用途や、従来のポリエチレンでは対応が難しかった環境下での使用を可能にしました。その物性は他の高分子材料とは一線を画しています。直鎖状エチレン系アイオノマーの概要はこちらをご覧ください。
本記事では、直鎖状エチレン系アイオノマーの代表的な特長をご紹介します。
直鎖状エチレン系アイオノマーは、多分岐エチレン系アイオノマーと比較して摩耗減量が大幅に低く、耐摩耗性に優れています。さらに、耐摩耗性に優れるポリエステル系熱可塑性エラストマー(TPC)と比べても高い性能を発揮します(図1)。この耐久性を活かすことで、スキー用品やシューズのソールなど、スポーツ用品の高機能化が期待されます。
図1 各アイオノマーおよびポリエステル系熱可塑性エラストマーにおける耐摩耗性の比較
ヘーズは曇り度を示す指標で、数値が低いほど透明性に優れます。一般的には、ヘーズが10 %未満であれば高い透明性を持つと評価されます。一方、グロスはフィルムの光沢度を示し、数値が高いほど光沢性に優れます。
図2では、インフレーション成形した30 μm厚の単層フィルムにおける光学特性を示しています。多分岐エチレン系アイオノマーは透明性の高い素材として知られていますが、直鎖状エチレン系アイオノマーはヘーズ・グロスの両面でさらに優れています。また、日本ポリエチレンのフィルム用途向け直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)と比較しても、際立った透明性と光沢性を有しており、包装用途に非常に適しています。
図2 各アイオノマーおよび直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)におけるグロス(光沢度) vs. ヘーズ(曇り度)の比較
(30 μm厚の単層インフレーション成形フィルム)
極性基を有する直鎖構造のポリエチレンに金属原料を混合すると、イオン凝集構造に由来する疑似架橋点が形成され、従来のポリエチレンでは得られなかった高い引張衝撃強度を実現します(図3)。
さらに、多分岐エチレン系アイオノマーと比較しても優れた引張衝撃強度を示します。これは、多分岐ポリマーでは分子末端が多く存在し、破壊の起点となりやすいためです。
この高強度を活かすことで、自動車外装部品や建材など、強度が求められる成形品への応用が期待されます。
図3 各アイオノマーおよびポリエチレンにおける引張衝撃強度の比較
(評価規格:JIS K6922-2、試験片形状:ASTM D1822 Type-S)
日本ポリエチレンでは、直鎖状エチレン系アイオノマーの特長を活かし、環境課題の解決に向けた価値提案を進めています。その一例として、真空密着包装(スキンパック)への適用を検討しています。
スキンパックはヨーロッパで主流の包装方法の一つで、食品の形状に合わせてフィルムを密着させ、真空状態でパッケージングする技術です。この方法により、形崩れを防ぎ、食品から発生するドリップ(細胞内部の水分やたんぱく質、旨味成分を含む液体)の流出を抑えられます。
この用途に直鎖状エチレン系アイオノマーを使用することで、以下のような付加価値が期待されます。
さらに、パッケージング状態のまま陳列可能であるため、そのまま棚に並べて長期陳列ができ、棚出し作業の頻度を削減できます。これにより省人化が進み、人手不足といった社会課題の解決にも貢献します。
直鎖状エチレン系アイオノマーフィルムでスキンパックされた食品サンプル
直鎖状エチレン系アイオノマーはスキンパック用途にとどまらず、幅広い分野での応用が期待される高機能素材です。耐久性により製品の長寿命化を実現し、交換頻度の低減や廃棄物削減に貢献します。さらに、高強度による材料の減量化が可能となり、資源消費の抑制と環境負荷の軽減が見込まれます。
加えて、極性基を有することから極性材料との接着性が高く、相溶性のあるポリマーとの改質効果も期待できます。水への分散性も確認されており、ディスパージョン用途への展開も可能です。
現在、日本ポリエチレンでは直鎖状エチレン系アイオノマーの製品化に向けて、共創パートナーを募集しています。市場ニーズの把握や技術開発の方向性を明確にするため、試作段階から率直なご意見をいただき、市場価値の向上と量産化を見据えた取り組みを進めています。
開発品を活用したい方、新たな用途を模索されている方、量産品としての展開に関心のある方など、業種や規模を問わずご相談を歓迎します。サンプル提供にご興味のある方は、ぜひお問い合わせフォームよりご連絡ください。
オンライン面談などを通じて、開発品の特性やご要望に応じた使用方法をご説明し、最適な用途開発を共に進めていきたいと考えています。次世代アイオノマーの可能性を広げる共同開発を通じて、新たな価値創出をご一緒できることを心よりお待ちしています。
日本ポリエチレン株式会社 特許 第7694008号
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