ポリエチレンガイドPOLYETHYLENE GUIDE

エンプラの長寿命化を実現する改質用ポリエチレン 「レクスパール™」

エンプラの長寿命化を実現する改質用ポリエチレン 「レクスパール™」

ポリアミドやポリブチレンテレフタレートなどのエンジニアリングプラスチックに対し、エチレン系特殊コポリマー 「レクスパール™」 を改質材として用いることで、耐衝撃性や低温脆性の改善が可能となります。これにより、製品の長寿命化に貢献します。

エンジニアリングプラスチック活用拡大における課題

近年、エンジニアリングプラスチック(エンプラ)は自動車・電機・精密機器など、さまざまな分野で活用される重要な材料となっています。高強度や耐熱性に優れる一方で、材料によっては耐衝撃性が課題となる場合があります。
また、剛性向上の目的でガラス繊維(GF)などの各種フィラーを添加すると、靭性が低下する傾向が見られます。さらに、機能性を確保するために多層化やブレンドが進む中で、異素材との接着性や分散性の不足が性能向上の障壁となるケースもあります。これらの課題を克服し、製品の長期耐久性や長寿命化を実現することが、エンプラの活用範囲をさらに広げるための重要なポイントとなります。

極性共重合ポリエチレン「レクスパール™」

本記事では、エチレン系特殊コポリマー「レクスパール™」を用いたエンプラ改質技術についてご紹介します。
レクスパール™はアクリレートや無水マレイン酸(MAH)を共重合することで、柔軟性・反応性・高い極性を兼ね備えたエチレン系樹脂です。ポリアミド(PA)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのエンプラに添加することで、耐衝撃性や低温衝撃性を向上させる効果があります。
さらに、MAHを導入したレクスパール™ ETは、極性樹脂や金属との接着性・相溶性に優れており、複合材料やフィラーブレンドにおける課題解決に貢献します。次項では、レクスパール™ ETを用いた改質事例として、自動車用部材に使用されるPAの耐衝撃性改質向上について取り上げます。

レクスパール™の耐衝撃性改質効果

レクスパール™はコモノマーの構成によって EEA(エチルアクリレート:EA)、EMA(メチルアクリレート:MA)、ET(MA+MAH) の3つのシリーズがあり、いずれもポリエチレン系樹脂の柔軟性を活かし、耐衝撃性の向上に寄与します。


レクスパール™ EEAは高結晶成分を多く含むため、コモノマー含有量に応じて融点が高くなります。一方、レクスパール™ EMAは非晶成分が多く、EEAと比較して融点が低くなります。これらの特性を活かし、EEAは耐熱性が求められる用途に、EMAは低温ヒートシール性が求められる軟包材などに広く使用されています。
また、レクスパール™ ETはMAとMAHを共重合した三元系ポリマーであり、酸無水物の反応性を活かして -OH や -NH2 などの極性官能基を持つ樹脂に対して優れた改質効果を発揮します。

図1に、レクスパール™ ET(ET350X)およびレクスパール™ EMA(EB050S)をポリアミド(PA6)に添加した際の改質効果を示します。
レクスパール™ ETは非常に高い衝撃強度の改質効果を示しますが、分子内のMAHがPAマトリックスと高い反応性を持つため、流動性が低下する場合があります。
一方、レクスパール™ EMAは分子内にMAHを含まないため、耐衝撃性を適度に向上させつつ、流動性も維持できるというバランスの取れた改質が可能です。
このように各種レクスパール™を用途に応じて使い分けることで、成形性と物性の改質バランスを柔軟にカスタマイズすることができます。

図1 レクスパール™ ETおよびEMA添加によるPA6の耐衝撃性/流動性バランス

図2に、低温環境下でのレクスパール™ ETの耐衝撃性改質データを示します。
–40℃という低温条件においても、標準条件(23℃)と同様に、衝撃強度を大幅に向上させることが可能です。


図2 PA6+ET350X配合による低温下での耐衝撃性改質

図3に、PA6とレクスパール™をメルトブレンドした際のモルフォロジー観察結果を示します。
MAHを持たないEMAでは、PA6中に比較的大きなEMAのドメインが形成されていることが確認されます。一方、MAHを持つETでは、PA6の-NH2基との結合形成により、極めて微細に分散し、マトリックス樹脂であるPAに均一に混ざり合うことが可能です。このモルフォロジーの違いにより、物性と流動性のバランスに差が生じます。


図3 PA6:レクスパール™=80:20、モルフォロジー(TEM画像)
黒色:PA6、白色:レクスパール™
左:レクスパール™ EMA(無水マレイン酸なし)
右:レクスパール™ ET(無水マレイン酸あり)

環境・社会的意義

レクスパール™を改質材として活用することで、製品の耐久性や寿命を向上させ、廃棄物の発生や資源消費の抑制につなげることが可能です。これにより、環境負荷の低減やCO2排出量の削減に貢献し、持続可能な社会の構築に寄与します。
また、部品交換や修理の頻度が減ることで、経済的負担やメンテナンスコストの軽減にもつながり、社会全体の効率性向上にも寄与します。これらの特性は、カーボンニュートラル(CN)やESG対応を目指す製品開発において、素材選定の新たな選択肢となります。

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